2005年に発生した保険金不払い問題をご存知でしょうか。これは生命保険・損害保険において、多くの契約者に対して不払いが発生していたことが発覚した問題で、それに対し保険会社や金融庁がその問題への対策を実施しました。
今回は、過去のこととは言い切れない保険の不払い問題の内容や原因、対策について解説します。
【2005年に発生した保険金不払い問題とは】
2005年2月に大手損害保険株式会社が、自動車・火災・傷害保険の分野で、約 4800 件(約1億2000万円)の保険金の支払い漏れと、約25万件(約4000万円)の保険料の取り過ぎがあったことを発表しました。これをきっかけに、他の損害保険各社も社内調査を実施した結果、同年7月時点で調査が終わっていた14社の不払いの合計が、13万件(約50億円)を超えることが判明したのです。
保険金不払いといわれるものは、大きく以下の3つです。
①支払い漏れ
契約者が保険の請求した際に、鑑定人などが他にも保険が適用される箇所があることに気がついていながら、請求された箇所しか支払わないといったパターンです。
例えば、台風で屋根の被害の申請があった際、雨樋の歪みにも気付いたが、申請がなかったので支払わないことなどがあてはまります。
②請求勧奨漏れ
契約者が、保険申請ができる可能性があるとわかっていながら、その案内をしないパターンです。
例えば、台風による被害で申請があったときに、落雷による被害でも申請できる可能性があるのに、それを案内しないことなどがあてはまります。
③保険料の取りすぎ
本来あるべき保険料以上の保険料で支払いを受けていたパターンです。
例えば、建物の構造認定が正しく行われず適切な保険料が適用されていなかったり、耐火性が高い住宅に対して適切な割引制度が適用されていなかったりといったことがあてはまります。
火災保険だけでなく、地震保険についても取りすぎた事案があることも発覚しています。
【保険金不払いが起こる原因とは?】
このような保険金不払いが起こってしまう原因とは一体なんでしょうか。考えられる理由を3つご紹介します。
<保険の自由化>
1996年の保険業法改正によって保険の自由化が進んだことで、保険業界では商品をめぐる競争が激化し、多種多様な商品が生まれました。取り扱う商品の種類そのものが増え、さらに特約も増えたことで複雑さが増し、保険会社側ですら正しくその内容を理解できていなかったり、案内漏れを起こしたりという事態につながったのです。
さらに2001年には、国内の損害保険会社も医療保険を販売できることになりました。損害保険会社の販売担当者はさらに多種多様な商品を扱わなければならなくなった上に、医療保険の査定に慣れていなかったことも、その後不払い問題が続くことにつながってしまったといえるでしょう。
<契約者軽視(利益至上主義)の考え方>
保険業界の契約者軽視の考え方、利益至上主義の考え方が、不払い問題の原因となったといえます。会社自体が、契約者にできるだけ保険金を支払わずに利益を溜め込むことを一番の目的としていたのです。
現場でいうと、保険会社の販売担当者や代理店には厳しいノルマが課されていることから、契約者のことなど考える余裕もなく、とにかく利益を上げるという姿勢が当たり前のようになっていました。ひどい時には、法令違反をしてまで契約をとってくるケースさえあったのです。さらに新規契約が最も重要な項目とされていたことから、既存の契約者が軽視される傾向にあったことも問題となりました。
このように、保険の契約の時点ですでに契約者への十分な説明がなされず、さらには契約後のフォローもなく、申請者への対応も十分ではない、入り口から出口まで問題だらけという、腐敗した保険業界の状況が不払い問題の原因となったのです。
<保険会社と鑑定人の関係性>
損害保険を一定の金額以上で申請する場合、鑑定人が現地にやってきて査定を行います。この鑑定人というのは損害保険会社の社員ではないのですが、損害保険会社から依頼を受けてやってきます。鑑定人としては、保険会社から依頼が来て初めて仕事になるわけですから、損害保険会社>鑑定人という力関係になることはお分かりかと思います。その上に実は、この鑑定会社というのが損害保険会社を辞めた人がやっていたり、保険会社の子会社であったりというケースも非常に多いのです。
こうなると、利益至上主義の損害保険会社としては、「できるだけ不払いになるように持っていけ!」と鑑定人に依頼するという関係性ができてしまいます。ひどいケースでは、不払いにできたらその分のインセンティブを渡しているという話もあります。
そもそも、この鑑定士という資格は国家資格でも何でもなく、保険会社が発行しているものということ自体にも、問題があるといえます。
【保険会社による対策は?】
損害保険会社では当時、
①査定部門を本社に一元化
②査定の担当者に、外部人材を登用
③支払い漏れを警告するシステムの導入
④医療保険の販売資格制度を導入
⑤複雑・ 多様化しすぎた特約の統廃合
などの対策が行われました。
④については、付帯している医療関連の保険について、不払いが多かったことに対する対策といえます。
2005年以降、保険の不払い問題に対して一定の効果がありましたが、ここ数年の自然災害多発が影響してか、また不払い問題が再燃しているように感じている関係者も多いようです。
【金融庁による対策は?】
金融庁では、平成17年8月に策定された「保険会社向けの総合的な監督指針」の改正を通して、契約者保護ルールの整備を行いました。
より具体的には、
・広告規制を強化
・販売の際には「契約概要(商品の仕組みや保障の内容)」と、「注意喚起情報(告知義務の内容など特に注意喚起すべき事項)」の提示を義務化
・迅速かつ適切な保険金支払管理態勢の構築を要請
・契約締結前の「意向確認書面」交付を義務化
(同時に、商品内容がお客様のニーズに合致しているかどうかを確認)
・さらなる監督指針の改正
以上のような対策が行われています。
そして、保険金不払いの問題に対する金融庁の行政処分は,生損保合わせて7回,28社に対して発出されています。
損害保険会社に対する処分では、平成17年11月25日の26社に対する行政処分、平成19年3月14日の10社に対する行政処分などがあります。
【最後に】
2005年に起こった不払い問題をきっかけに、保険会社や金融庁による対策が行われ、保険業界の浄化に一定の効果があったものと考えられます。しかし、いまだに保険の内容は複雑で説明が十分とはいえず、契約者側が簡単に理解できないことも多いですし、保険会社の利益至上主義が完全に改善されたとも思えません。鑑定人の問題については、今もまさに鑑定の現場で起こっていることです。鑑定人と接触するよりも前に、申請相談の窓口ですら、何とか不払いに持ち込もうとしていると感じた契約者も多いと聞きます。
不払い問題はおそらく、過去のことではありません。
火災保険などを申請する場合には正しい知識をつけ、契約者としての権利をはっきり主張する必要があります。自分だけでは不安だという方は、損害保険申請のプロに相談してみてください。