マンションやアパートなどの大家さんにとって、所有する賃貸物件の修繕費用は大きな悩みの一つだと思います。近年、地震や台風などの大きな自然災害が相次いでいますが、こうした災害の被害にあってしまった場合に大家さんはどうしたら良いのでしょうか?大家さんの修繕義務の範囲や、直面するリスクについて解説します。
1 大家さんには修繕義務がある
大家さんには、賃貸物件の修繕義務あります。
民法第606条において、
「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う」
を示されているのです。
賃貸物(部屋や設備など)を通常通り使用することができないほど破損しているのに修繕を怠った場合、賃借人から家賃の支払いを拒否されたり、減額を求められたり、修理費用を請求されたりする可能性があり、大家さんはそれに応じなければなりません。
2 大家さんが修繕しなければならない範囲
2-1建物全体(屋根、壁、柱、床など)の修繕
屋根、壁、柱、床など、建物全体の修繕をしなければなりません。玄関扉や窓、ベランダなども修繕しなければならない範囲に含まれます。
2-2内装の修繕
壁紙や床材などの内装についても、修繕の義務があります。
ただし、ちょっと染みがついただけ、剥がれただけ…といった程度であれば、修繕しなくても良い場合が多いです。
例えば、台風などの影響で、大きなものが飛んできて窓ガラスを割って壁紙を傷つけた場合は大家さんによって修繕する義務があります。
※賃借人が窓を開けっぱなしにしていたことが原因で壁紙に被害があった場合は、大家さんに修繕義務は発生しません。
2-3設備の修繕
マンションのエレベーターなどの設備はもちろん、初期設備としてエアコンやガスコンロ、給湯器などが備え付けられていた場合、大家さんに修繕する義務があります。
エアコンやガスコンロなどは賃借人が修繕するのではないか?と思うかもしれませんが、初期設備は大家さんの所有物となり、所有者である大屋さんが修繕する必要があるのです。
3大家さんが修繕しなくても良い場合(範囲)
続いては、大家さんが修繕をしなくても良い場合について解説します。
3-1建物が滅失してしまった場合(賃貸借契約が終了する場合)
建物が滅失してしまった場合は、修繕をせずに賃貸借契約を終了できます。
建物が滅失するとは、建物が修復不可能なほど壊れてしまった場合だけでなく、全壊はしていなくても、修繕費用が高すぎて修繕ができない場合も含めます。
3-2賃借人の家財への補償
賃借人の家財は、大家さんが提供しているものではありません。家財の火災保険については、賃借人が加入する必要があります。
そのため、賃借人の家財に被害があった場合には、大家さんが買い替えなどをする必要はありません。
ただし、エアコンが備え付けられていることが前提の物件の場合、このエアコンは設備の一部と考えられます。設備であるエアコンが被害にあった場合は、大家さんに修繕義務があります。
前の住人が置いていったエアコンなどをそのまま設置している(残置物)場合は、修繕義務は発生しません。ただし、契約時点でエアコンなどが残置物であり、初期設備ではない旨を伝えておかなければなりません。
3-3賃借人や他の住人の故意過失による被害
賃借人自身や他の住人の故意過失によって、物件が何らかの被害を被った場合は、大家さんに修繕の義務は発生しません。
例えば、洗濯機のホースが外れて下の階の住人の部屋にまで水漏れしてしまった場合などが挙げられます。
こうした場合、大屋さんは被害を受けた側であり、修繕の義務が発生するのはホースの水漏れを発生させてしまった住人です。個人賠償責任保険などを利用して、修繕をしてもらうことになります。
その他、賃借人が定期的な掃除を怠ったことが原因で備え付けのエアコンが故障した場合などは、使用者である賃借人に過失があると考えられ、賃借人に修理費用を請求できる場合があります。
3-4修繕中の仮住まいの費用
物件に修繕が必要となれば、賃借人に仮住まいをしてもらう必要がある場合が出てきます。大家さんの管理不行届きが原因の場合は別ですが、自然災害などで被害を受けた場合、大家さん自体に落ち度はありません。そのため、仮住まいの費用まで負担する必要はなく、自身の物件の賃貸料を無料にすれば十分だといえます。
新しい賃借人を探すのが難しい状況であれば、仮住まいの費用を負担することで、修繕後に引き続き同じ部屋を借りてもらうというケースもあるようです。
4災害時の大家さんのリスクとは?
災害が起こって物件に何らかの被害があった場合、大家さんにはどのようなリスクがあるのでしょうか。
4-1修繕の費用がかかる
修繕には、当然のことながら費用がかかります。一軒家よりも修繕の範囲や規模が大きいことがほとんどですから、その費用は高額になることが多いです。
4-2修繕中は賃貸料が入ってこない
修繕費用が出ていくだけではなく、修繕中は賃借人に別のところで生活してもらう必要がある場合が多いため、その間の賃貸料が入ってきません。入ってくるお金がなくなり、修繕の費用は出ていくという、ダブルパンチにあいます。
4-3退去により賃貸料が入ってこなくなる
修繕が長引く場合や、短期間であっても住まいを変えるのであれば引っ越してしまった方が良いと考える人がいた場合など、物件の修繕が賃借人の退去に繋がることがあります。
修繕中の賃貸料が入ってこないだけならば、期間が限定されるのでまだ良いですが、退去されてしまうと、次の入居者が見つかるまで賃貸料が入ってこなくなってしまいます。修繕がきっかけで数年間空室になってしまうということも考えられるのです。大家さんにとって、空室が続くことが一番の痛手ですよね。
4-4賃料減額が必要になる
修繕中に住み続けられる場合であっても、エレベーターが使えない、共有施設が使えない、部屋の一部が工事で使えないなどの理由で、元々契約していた価値を提供できなくなった場合、その期間の賃料を減額する必要が出てくる可能性があります。
こちらも工事期間中だけの減額ですめばまだ良いですが、修繕をしても何らかの不便や劣化が残ってしまう場合、入居者から賃料減額の交渉をされるかもしれません。または、退去の申し出を防ぐ目的で、今後の賃料減額を検討しなければならないこともあるでしょう。
5 まとめ
賃貸物件が災害によって被害を受けてしまった場合、大家さんには修繕義務が発生します。修繕を行うにあたって心配なのは、出費が増え、収入が減ることです。なんとかして、少しでも費用を抑えたいですよね。
こうしたときに備えて入っているのが火災保険ですが、申請内容によって支払われる保険金の金額が異なることも多いです。特にマンションやアパートなどの物件は大きく、個人で全ての被害箇所を特定するのは難しいでしょう。適切な保険金を受け取り、きちんと修繕を行うためにも、 一度保険申請のプロに相談してみてはいかがでしょうか。